第15講 担保

岡山商科大学法学部准教授 倉持 弘

ここでの重点

前講で担保(債権の回収を確実にするための各種の制度)について簡単に説明したが、本講でもう少し詳しく説明していく。

第1節 保証

保証とは、主たる債務者がその債務を履行しないときに保証人が代わりに履行する責任を負う、という担保方法である(第446条第1項)。債権者と保証人となろうとする者が契約(保証契約)を結ぶだけでよいので設定は容易であるが、保証人の資産状態が悪化する可能性もあり確実性は低いと言われる。注意して欲しいのは、保証契約は債権者と保証人となろうとする者とで結ぶ契約であって、債務者と保証人となろうとする者との間で結ぶものではないということである。実際上は債務者が保証人になってくれるように頼むことも多いと思われるが、それは保証の委託といい、委託がなくても保証人となることはできる。保証人が主たる債務者に代わって弁済をしたときは、委託を受けた保証人は支出した財産の額に利息や費用も含めて求償できる(第459条・第442条第2項)が、委託を受けない保証人は主たる債務者が利益を受けた限度でしか求償できない(=利息・費用を含まない、第462条・第459条の2第1項)といった違いがある。保証契約は、書面(または電磁的記録)によって行わなければならない(第446条第2項第3項)。さらに、事業に係る債務の保証(根保証)については、公正証書によらなければならないなどの強い規制がある(第465条の6)。日本では、保証人として負担した他人の債務が原因となって破産する人が多くいるといった問題が起きているため、保証人となるに際して慎重な考慮を求めるためである。

保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、代わりに履行する責任を負う(第446条第1項)。このことをより具体的に定めているのが、第452条、第453条である。第452条本文は「債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。」と定めていて、これを催告の抗弁という。では、口頭で主たる債務者に催告して断られたらすぐに保証人に請求できるかというと、そうではない。第453条はさらに「債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。」と定めている。つまり、主たる債務者に現金や預貯金、有価証券などの執行の容易な財産がある場合には、先にそれらに執行した後でなければ、保証人には請求できない。これを検索の抗弁という。ただし、連帯保証人は、この2つの抗弁権を持たない(第454条)。連帯保証人とは(他の保証人とではなく)「主たる債務者と連帯して債務を負担した」者であって、基本的に主たる債務者と同等の義務を負う者だからである。債権者側から見た場合には、連帯保証ではない(普通保証の)保証人よりは連帯保証人の方が便利であり、金銭の貸借などの場面では金を貸す側(債権者側)が実際上立場が強いために、実際には普通保証よりも連帯保証の方が多く見られる。

保証人が複数いた場合はどうなるのか。たとえば、BがAから100万円借り(Aが債権者、Bが債務者)、その債務についてCとDの2人が保証人になったとする。主たる債務者Bが弁済できなくなったときに、債権者Aは保証人C・保証人Dのどちらにも100万円を請求できる(合計で100万円まで)のか、それとも半分の50万円ずつしか請求できない(保証人Cも弁済できない場合には保証人Dに50万円しか請求できない)のか。第456条は「数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条の規定を適用する。」と定め、第427条は「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。」と定めているので、複数の保証人がいる場合には等しい割合で義務を負う、先ほどの例でいえば保証人C・Dはそれぞれ50万円ずつ弁済する義務を負うことになる。これを分別の利益という。ただし、「主たる債務者と連帯して債務を負担」する連帯保証人には分別の利益は認められない。

第2節 抵当権

抵当権とは、債務者または第三者(物上保証人)の所有する不動産を、債権者に引き渡すことなく担保とし、債務者が債務を履行しないときには「抵当権を実行する」=その不動産を競売にかけてその代金から優先弁済を受けられる(優先弁済権、債権者平等の原則の例外)、という約定担保物権(契約によって設定される担保物権)である(第369条第1項)。

たとえば、債務者Bに、A、C、D3人の債権者がいて、それぞれの債権額は1000万円、1500万円、500万円であり、誰も抵当権は持っていない、とする。この状態で、債権者の中の誰かが債務者Bの持つ建物について強制執行を行った場合、他の債権者もその手続に参加して配分を得ることができる(配当要求)。誰も抵当権を持たなければ、配当要求をした全債権者に平等に(債権額に比例して)配分される(債権者平等の原則、前講参照)。たとえば、債務者Bの建物を競売にかけた結果、弁済に充てることができる金額が1500万円になったとすると、3人の持つ債権額の合計は3000万円なので、3人の債権者はそれぞれの債権額の1500/3000=1/2ずつ配当を受ける。具体的には、Aは1000万円*1/2=500万円、Cは1500万円*1/2=750万円、Dは500万円*1/2=250万円となる。しかし、Aがその建物に抵当権を持っていたとすると、抵当権者Aは「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」(優先弁済権、第369条)を持つので、その建物の競売の結果得られた1500万円は、まず抵当権者Aの1000万円の債権の弁済に充てられ、残りの500万円が債権者C・Dに債権額に比例して配分される(Cが375万円、Dが125万円)ことになる。

抵当権は不動産に関する物権(担保物権)であるため、登記をしなければ第三者(先の例のC・Dのような他の債権者など)に対抗できない(第177条)。つまり、手続きは煩雑である。一方、抵当権者は優先弁済権を持つので、抵当目的物の評価額の範囲内であれば、ほぼ確実に債権を回収できると言われる。なお、実務上は、価格変動などを考慮して、目的物の価格の7〜8割程度までに債権額を抑えるのがよいとされている。しかし、いわゆるバブル経済が崩壊した時は不動産価格が大きく下落したことなどにより、抵当権があっても完全には回収できない債権(いわゆる不良債権)が多く発生した。

抵当権の存在は登記によって公示するので、抵当目的物を債権者に引き渡す必要はない(次節で説明する質権との違い)。したがって、抵当権を設定しただけの状態では抵当権設定者は抵当目的物をそのまま利用し続けることができる。たとえば、銀行Aから住宅ローンを借りて住宅を購入したBが、そのローンの担保として購入した住宅にAのために抵当権を設定した場合でも、Bはそのままその住宅に住み続けることができる。逆に、抵当権を設定できる目的物は登記できる物に限られ、民法では不動産のみが対象とされている(第369条第1項)。なお、自動車や船舶にも登記・登録制度があるので、自動車抵当法などの特別法によって抵当権の目的物とすることが認められている。

抵当権は担保「物権」であるから、登記されていれば、抵当目的物に新たに物権を獲得した者に対しても対抗できる。たとえば、債権者Aが債務者Bの所有する不動産甲に抵当権を持っていて登記もされている場合、債務者Bがその不動産甲をCに売却したとしても、債務者Bが債務を弁済できなくなったときには、抵当権者Aは、今はCの所有となっている不動産甲について抵当権を実行することができる。もちろん、そうなってはCが困ることになるので、たとえばCが払う不動産甲の代金(の一部)をAがBに対して持つ債権の弁済に充てて(第三者弁済)債権を消滅させる(それにともなって抵当権も消滅する)といったことが行われることになる。このような問題の詳細については、「担保物権」の講義で聴いて欲しい。

第3節 質権

質権とは、主に動産を担保とする際に用いられるもので、債務者または第三者(物上保証人)の所有する動産を、債権者に引き渡して担保とし(質入れ)、債務者が履行しないときには、その動産から優先弁済を受けられる(優先弁済権、債権者平等の原則の例外)、という約定担保物権(契約によって設定される担保物権)である(第342条、第344条)。

現在では、担保なしに金銭を借りることができる消費者金融業者があるが、そのような業者が日本で現れたのは1950年代のことであり、それまでに個人が少額の金銭を借りるのに利用したのが質屋であり、質屋で利用されたのがこの質権である。質屋の客は、質屋に品物(質物、質草)を預けて金を借り、借りた金(+利息)を返せば預けた質物を返してもらえる。「金を返すまでは質物を返さない」として返済を促す留置的効力が質権の重要な効力である。一方、債務者が弁済できないときは、質権を実行することになるが、その方法として法律上予定されているのは、抵当権と同じく競売である。しかし、質屋で質物として利用されることの多い日用品などを競売にかけると、競売費用に多くをとられ、債権の弁済に充てることができる額がほとんど残らないといったことになりかねない。そのため、公安委員会の許可を得た質屋では、質物を質屋のものとする(質物で代物弁済する、質流れ)方法による債権の回収が認められている。また、質屋営業の許可を得るためには質物を安全に保管するための耐火性の倉庫が求められるなど、質物の保管に費用がかかるため、質屋については特別の高金利が認められている。しかし、逆に、金銭を借りるところとしては、高金利で担保も必要な質屋の利用は減少し、消費者金融等の利用が増加しているのが現状である。

抵当権とは違い、質権を設定するには「債権者にその目的物を引き渡すこと」が必要である(第344条)。そのため、たとえば事業用の資金の融資を受けるのに工場の機械などの営業用の動産を担保として引き渡しては営業ができなくなり、本末転倒である。そのため、営業用の動産などを担保として融資を受ける方法として、次節で述べるような非典型担保と言われるものが考案された。

質権は、動産だけでなく、不動産や債権などの財産権にも設定することができる。しかし、以上に述べたような事情から、現在では動産質・不動産質はあまり利用されず、権利質(債権質)が利用される程度である。

第4節 非典型担保

質権、抵当権などの民法に規定のある担保を典型担保といい、民法に規定のない担保を非典型担保という。前講で述べたように、日本では事業用の資金を調達する際に担保が重視された一方で、質権には債権者に目的物を引き渡さなければならないこと、典型担保の実行方法が競売を基本とすることなどの点から、非典型担保が発達した。ここでは譲渡担保と所有権留保について簡単に説明するが、非典型担保の詳細は「担保物権」の講義で聴いて欲しい。

譲渡担保とは、債務者の所有する物の所有権を担保のために債権者に譲渡するという形式の非典型担保である。目的物の所有権は債権者に譲渡するが、債務者はその物を債権者から借りて使い続けるという形式をとることで、質権の「債権者に目的物を引き渡さなければならない」という問題点を回避するものである。債務者が債務を弁済すれば目的物の所有権を債務者に戻すが、債務を弁済できないときは、債権者は所有権に基づいて債務者から目的物の引渡しを受け、それを売却するなどして債務の弁済に充てることになる。

所有権留保とは、自動車の代金債権を担保するためなどに用いられる非典型担保である。ユーザーがディーラーから代金後払いで自動車を購入した場合、自動車には登録制度があるので、自動車はユーザーに引き渡すものの登録上の所有者はディーラーのままとしておき、ユーザーが代金を完済すれば登録上の所有者もユーザーに変更するが、代金を完済できなくなったときは、所有権に基づいてユーザーから自動車の引渡しを受け、それを売却するなどして代金債務の弁済に充てるというものである。


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