第13講 貸借の契約

岡山商科大学法学部准教授 倉持 弘

ここでの重点

第1講で述べたように、貸借の契約は、金銭の貸借のような借りた物を消費して「種類、品質及び数量の同じ物」を返す消費貸借と、自転車の貸借のような借りた物を使用して借りた物そのものを返す使用貸借・賃貸借に分けられる。

第1節 賃貸借

借りた物を使用して借りた物そのものを返す契約のうち、賃料を払うものが賃貸借である。日常生活でよくあるものとしては、レンタカーやレンタサイクルを借りる契約、アパートを借りる契約などがある。なお、アパートを借りる契約や建物を建てるために土地を借りる契約については、民法の特別法である借地借家法が適用されるが、それについては契約法の講義で聴いて欲しい。

第601条は「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。」と定めている。「約することによって、その効力を生ずる」と定められているので、約束(合意)だけで効力の生ずる諾成契約である。また、賃貸借契約が成立すると賃貸人は目的物を使用・収益させる義務を負い、賃借人は賃料を支払う義務を負うので、双務契約であり、目的物の使用・収益と賃料の支払とは対価関係に立つので、有償契約である。

賃貸借契約によって賃貸人は目的物を使用・収益させる義務を負う。賃借人が目的物をどのように使用・収益することができるかについては、第616条によって準用される第594条第1項で「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。」(借主の用法遵守義務)と規定されている。たとえば、本は読むものであり(目的物の性質によって定まった用法)、いくら大きくて重い本だったとしても、借りてきた本を漬物石代わりに使ってはならない。「契約で定まった用法」の例としては、賃貸マンションなどで「ペット禁止」とか「事務所としての使用禁止」といったことが契約で定められることがある。これらの用法遵守義務違反があった場合には、賃貸借契約解除の理由となる。

賃貸人は目的物を使用・収益させる義務を負っていることから、目的物を使用・収益できる状態に維持・管理すること、つまり故障した場合の修理などは賃貸人の義務となる(第606条、修繕義務)。なお、賃借人は修理が必要であることなどを賃貸人に通知する義務を負い(第615条)、通知をしても相当な期間内に賃貸人が修繕しないときは、賃借人が自ら修繕することができる(第607条の2)。賃借人が修繕をした場合には、その費用の償還を請求できる(第608条、費用償還義務)。なお、修繕義務・費用償還義務の規定は任意規定であるから、特約で排除することができる。実際にも建物の賃貸借契約では「小修理は賃借人の負担」などと定められることが多い。

賃借人は賃料の支払義務を負う。賃料の支払時期については、第614条が「動産、建物及び宅地については毎月末」と定めているが、これも任意規定なので、賃貸借契約で「家賃は前月末までに払うこと」などと定められている場合にはそちらの方が効力を持つ。「賃借人の責めに帰することができない事由」によって「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」には、その使用・収益をすることができなくなった割合に応じて賃料は減額される(第611条第1項)。たとえば、地震によって借りている建物の一部が倒壊し使用できなくなった場合や、建物には被害が生じていないが水道やガスが使えなくなった場合も賃料は減額されることになる。

賃貸借契約が終了したときは、賃借人は目的物を返還する義務を負う(第601条)が、その際には、借りた時の状態(原状)に戻して返還する義務を負う(第621条)。たとえば、賃借人の持ち込んだ付属物(家具や照明器具など)は収去しなければならない。また、通常の使用による損耗や経年変化は除かれるが、それを越える損耗等について賃借人に帰責事由がある場合には、賃借人は損害賠償義務を負う。不動産の賃貸借契約では賃料債務など賃借人が負う債務の担保のために賃借人から賃貸人に敷金が交付されることがあるが、それは、賃貸借契約が終了したときには未払いの賃料や賃借人の故意・過失による賃借物の毀損・汚損の原状回復費用を差し引いて返還されるべきものである(第622条の2)。逆に言えば、賃料の未払いや賃借人の故意・過失による賃借物の毀損・汚損がなければ、敷金は全額賃借人に返還されるべきものであるが、敷金の返還をめぐるトラブルは多く、国土交通省が『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』を公表している。

この節の最後に使用貸借について少し触れておく。第593条は「使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。」と定めている。使用貸借契約では、貸主が無償で使用・収益させる義務を負い、借主は賃料の支払義務等を負わないので、片務契約であり、無償契約である。「約することによって、その効力を生ずる」と定められているので、一応は、約束(合意)だけで効力の生ずる諾成契約ということになる。しかし、第593条の2で「貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。」と定められていて、使用貸借は書面で契約するか、実際に借主が借用物を受け取るまでは貸主が自由に解除できる、つまり合意だけでは完全な拘束力のない契約ということができる。同じく無償契約である贈与についても第550条で同様に定められている。

第2節 消費貸借と利息

第587条は「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」と規定している。「数量の同じ物をもって返還をする」契約であるから、借りた金額だけを返せばよく、利息を払う必要はないというのが原則である(無償契約、第589条参照)。また、「物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と定められているので、物の引渡しがあってはじめて効力を生じる要物契約であるが、書面による消費貸借は物の引渡しがなくても効力が認められる(第587条の2)。これは、同じく無償契約である贈与・消費貸借について、書面によるもの以外は物の引渡しがあるまでは解除ができると定められている(第550条、第593条の2)のとほぼ同じと言えるが、消費貸借については書面によるものであっても借用物を受け取るまでは借主側から解除できるとされている(第587条の2第2項)。

民法では、金銭消費貸借は無利息が原則とされているが、契約当事者間で利息を支払うという合意があれば、その合意に従って、借主は利息を支払わなければならない(第589条)。銀行や消費者金融から金銭を借りる場合には、ほぼ利息付となるであろう。利息を生じる貸金を元本(第7講参照)といい、利息付の金銭消費貸借契約が成立した場合、貸主は借主に対して、貸金の支払を求める債権(元本債権)と利息の支払を求める債権(利息債権)を獲得することになる。このように分けて考えるのは、元本債権は残したまま利息債権だけを第三者に譲渡するといったことがあるからである。利息は金銭を借りたことに対する対価であるから、利息付金銭消費貸借は有償契約となる。利率についても当事者間に合意があればその合意された利率(約定利率)に従う。利息を支払う合意はあるが、利率が定められていなかった場合には、法定利率によることになる(第404条)。利息付金銭消費貸借契約で利率が定められていないということはあまりなく、法定利率が実際に適用されるのは、たとえば事故(不法行為)があって加害者が被害者に損害賠償義務を負う場合には、加害者と被害者との間には利率についての合意は存在しないので、加害者は事故の時から実際に損害賠償を支払うまでの間の、法定利率に従って計算した利息を加えて支払う義務を負うといったケースである。法定利率は、2017年改正前は年5%と定められていたが、超低金利時代が長期間継続したこともあり、2017年改正により変動制に変更された。なお、商人間での金銭消費貸借では利息についての合意がなくても貸主は借主に法定利率に従って計算した利息を請求することができる(商法第513条)。

金銭の貸借においては、実際上、貸主が借主よりも優位な立場にあるため、契約内容を当事者間の自由に委ねた場合には、利率を高くするなど貸主にとって有利なものとなりやすい。そのため、利息制限法や貸金業法などによって規制が加えられている(第4講参照)。利息制限法は金銭消費貸借の利息の上限を定めた法律で、①元本が10万円未満の場合は年2割(20%)、②元本が10万円以上100万円未満の場合は年1割8分(18%)、③元本が100万円以上の場合は年1割5分(15%)を上限とし、それを超えた部分を無効と定めている(第1条)。たとえば、AがBに5万円を貸し、利率は年3割と契約で定めたとする。Aが1年後に元本5万円と年3割で計算した利息1万5千円(50000*0.3)の合計6万5千円の支払いを求めた場合、利息制限法によれば元本の額が10万円未満の場合は年2割を超えた超過部分は無効とされるので、借主が支払う義務があるのは元本5万円と年2割で計算した利息50000*0.2=1万円の合計6万円までとなる。借主が6万5千円支払ってしまった場合には、超過分5千円の返還を請求できる(過払い利息返還請求)。利息制限法は民事の規制であるが、利息については刑事の規制もある(第2講参照)。出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)第5条は、金融業者以外の者が年109.5%(うるう年の場合には109.8%)を越える利息を受け取ったなどの場合に「五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金又はその併科」の刑事罰を科すことを定めている。金融業者の場合は年20%を越える場合に「五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金又はその併科」の刑事罰が科され、さらに、年109.5%(うるう年の場合には109.8%)を越える場合には「十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金又はその併科」(超高金利罪、2006年改正で追加)が科される。また、貸金業法は貸金業者の登録制度、貸付条件の掲示、誇大広告の禁止、書面の交付、取立行為の規制、受取証書の交付などの規制を定め、さらに、いわゆる多重債務問題への対応として、貸金業者からの借入残高が年収の3分の1を超えている個人に対して新たに貸し付けを行うことを禁止している(総量規制)。


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