第9講 取引の場面における未成年者の保護

岡山商科大学法学部准教授 倉持 弘

ここでの重点

第1節 法人と自然人

民法では、人間関係を権利と義務の関係(法律関係)という面から見る。そのことから、民法上の人とは権利・義務を持つことができる者(権利・義務の主体)であり、権利・義務を持つことができる法的資格を権利能力または法人格という。

民法上の「人」には、生きている人間のほかに、会社のような、生きている人間ではないが法律上権利・義務を持つことが認められている存在が含まれる。生きている人間を自然人(シゼンジン)、会社など生きている人間ではないが法律上権利・義務を持つことが認められているものを法人(ホウジン)という。民法上の「人」、「者」、「売主・買主」といった言葉は、通常、この両方を含む。もちろん、法人の婚姻や養子縁組といったことはありえないなど、特定の条文で単に「人」や「者」と書かれていてもここでは自然人のみを指すというものもあったが、それが問題となることはなかった。しかし、近年では、消費者契約法が自然人のみを消費者として保護の対象とするなど、自然人と法人とを分けて規律する法律も出てきていて、それらの法律では自然人を表す言葉として「個人」という文言が使われている(消費者契約法第2条、偽造盗難カード預金者保護法第2条第2項)。民法では2017年改正により「個人根保証契約」(民法第3編第1章第3節第5款第2目の表題)についての規定が設けられた。

法人は、人の集まり(社団)を基礎とする社団法人と、拠出された特定の財産を基礎とする財団法人に分けられる。また、その目的によって営利を目的とする営利法人と営利を目的としない非営利法人に分けられ、非営利法人はさらに公益を目的とする公益法人とそれ以外の中間法人に分けられる。営利法人は営利を目的として活動するものであり、それによって得られた営利は営利法人を構成するメンバーに分配されるものである。したがって、構成メンバーのいる社団法人のみが営利法人となりうる。たとえば、会社の代表である株式会社では株主が構成メンバーであり、株主に対して営利が分配される(株式配当)。会社については、かつては商法で規定されていたが、2005年に会社法が制定されている。非営利法人についてはかつては民法で規定されていたが、2006年に「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」が制定され、非営利法人はまずは一般社団法人または一般財団法人として設立される。その後、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づいて官公庁による公益性の認定を受けると公益社団法人(公益社団法人日本プロサッカーリーグなど)または公益財団法人(公益財団法人日本相撲協会など)となる。なお、宗教法人法や私立学校法などの特別法によって設立される公益法人もある。

法人は、原則としてその代表者(取締役、理事など)や構成メンバー(株式会社の株主など)とは独立した権利能力を持つ。たとえば、法人の代表者や構成メンバーに対する債権者は、その法人に対して弁済を求めることはできない。逆に、法人に対する債権者は、その法人に対して弁済を求めることはできるが、その法人の代表者や構成メンバーに弁済を求めることはできないのが原則である(合名会社などの例外がある)。

第2節 自然人の権利能力・意思能力

自然人については第3条第1項が「私権の享有は、出生に始まる。」と規定している。この規定は、自然人は出生の時から権利を(義務も)持つことができる=自然人の権利能力は出生の時から始まることを定めたものであるとともに、自然人は出生しさえすれば誰でも権利を持つことができることを定めたものでもある。身分制度が存在した時代には身分によって持つことができる権利に違いがあった(江戸時代には「名字帯刀」は武士にのみ許されていたなど)が、身分制度が廃止された近代以降においては、誰にでも平等に権利を持つ資格が認められている(権利能力平等の原則)。なお、権利(財産権など)を持つ資格が平等に認められているだけであって、実際に権利(財産権など)を平等に持っているわけではないのはもちろんである。

自然人は出生の時に権利能力を獲得し(始期)、死亡の時に権利能力を喪失する(終期)。後者について直接に定めた規定は存在しないが、死亡によって相続が開始し(第882条)、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(第896条)ので、被相続人(相続される人=死亡した人)は「一切の権利義務」を持たないことになる、つまり死亡すると権利を持つことができなくなる(権利能力を失う)と考えられている。

第4講で述べたように、契約に法的な効力が認められる理由の一つに「当事者の意思」があげられる。「自分の意思で契約を結んだのだから、契約は守らなければならない」ということである。だとすれば、言葉の意味もよくわからないような幼児が「売る」とか「買う」というような言葉を口にしたとしても、それに法的な効力を認めることはできないと考えられる。売買について言えば「売る」「買う」という言葉の最低限の意味を理解できる能力を意思能力といい、意思能力のない者の法律行為は無効(第3条の2)とされている。もっとも、そのような者の代表は幼児や精神障害者などであり、そのような者は次節で解説する制限行為能力者の制度によって保護を受けることができるようになっている。そのため従来は意思能力の問題は理論的な問題と考えられていたのであるが、いわゆる高齢化社会の進展にともない制限行為能力者の制度によっては保護することができないケースが増加したため、2017年改正によって第3条の2の条文が付け加えられた。

第3節 未成年者の契約

前節で述べたように、生まれたばかりの赤児であっても権利を持つことはできる。しかし、生まれたばかりの赤児がその財産を管理したり、処分したりすることは実際にはできない。幼児のような意思能力のない者が、契約(法律行為)を結んだように見える行為をしたとしても、それは無効とされる(第3条の2)。意思能力はおおよそ7歳から10歳程度で備わる(個々人について具体的に判断される)と言われているが、それでは意思能力を備えた10歳程度の子どもが自分の意思で契約を結ぶことを認め、10歳程度の子どもが結んだ契約であってもきちんと履行しなければならない、とするのは妥当とは言えないだろう。10歳程度では判断能力も十分ではなく、また取引経験も未熟であるため、取引によって大きな損失を被るおそれも高いため、そのようなことのないよう法律による保護が求められる。

具体的には、未成年者の場合には、親権者が「子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する」と規定されており(第824条)、この規定によって親権者には、子の財産管理権と代理権が与えられている。親権者には、第824条という法の規定によって代理権が与えられているので、親権者は子の法定代理人である。2022年4月から18歳で成年とされた(第4条)ので、未成年者とは満18歳未満の者であり、未成年者の父母が親権者となる(第818条)。たとえば、子のもらったお年玉を親が「無駄遣いしないように」といって預かるといった行為は親権者による子の財産管理権の行使であり、親が自分で預かるのではなく、銀行へ持っていって子の名前で預金をするのは、親権者が子を代理して銀行と預金契約を締結しているということになる。未成年者の父母がすでに死亡しているなど、未成年者に対して親権を行う者がないときは、「後見が開始する」(第839条)。後見が開始するとは、後見人が付けられるということであり、後見人が付けられた人は、被後見人と呼ばれる。「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」(第859条)と規定されているので、後見人は被後見人の法定代理人である。なお、後見人が付けられるのは未成年者に対してだけでなく、成年に対して後見人が付けられることもあり、未成年者に付けられた後見人を未成年後見人、成年に対して付けられた後見人を成年後見人といい、単に後見人というときは未成年後見人と成年後見人の両方を含む。

このように、未成年者については、法定代理人(親権者または未成年後見人)が未成年者に代わって契約を結ぶことができる。また、未成年者自身が契約を結ぶ(法律行為をする)場合には、原則として、法定代理人の同意が必要とされ、法定代理人の同意なしに未成年者が単独で契約を結んだ場合には、後から取り消すことができるとされている(第5条第1項、第2項)。未成年者だけの判断にまかせるのではなく、法定代理人が判断して、未成年者にとって損になるような契約であれば同意を与えなければよいし、損になるようなことがなければ同意を与えて未成年者に契約を結ばせればよい。また、未成年者が事前に法定代理人の同意を得ずに契約を結んだ場合には、あとから法定代理人が判断して、未成年者の損になるような契約であれば契約を取り消してなかったことにすることもできるし、損になるようなことがなければ取り消さなければ契約は有効なままとなる。このように未成年者は、自分1人で完全に有効な(後から取り消されたりすることがない)契約を結ぶ(法律行為をする)ことができない。単独で完全に有効な法律行為をすることができる能力を行為能力といい、未成年者は、その行為能力が制限されているという意味で制限行為能力者と言われる。

契約が取り消された場合には、その契約は初めから無効となり(第121条)、無効な契約に基づいて給付されたものがあればそれは返還するのが原則である(第121条の2)。しかし、未成年者(制限行為能力者)の場合には、返還の場面でも保護され、「現に利益を受けている限度」で返還すればよい(すでに遊びなどに使ってしまって残っていない分は返さなくても良い)とされている(第121条の2第3項)。もちろん、その分だけ相手方が損失を被ることがあるが、それでも制限行為能力者の保護を優先するというのが法の価値判断である。

未成年者自身が契約を結ぶ(法律行為をする)場合についての原則は以上の通りであるが、例外的に未成年者が単独で(法定代理人の同意なしに)完全に有効な(後から取り消されることのない)法律行為をすることができる場合がいくつかある。1つ目は第5条第1項にある「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」である。たとえば、子どもが親戚からお年玉をもらう場合、これは法的には贈与契約(第549条)であるが、未成年者が「単に権利を得」る法律行為なので、未成年者が単独で完全に有効に行うことができる。未成年者が「単に権利を得、又は義務を免れる」だけの法律行為によって未成年者が損失を被るということはあり得ないからである。例外の2つ目は、第5条第3項前段にある「法定代理人が目的を定めて処分を許した財産」を未成年者がその目的の範囲内で処分する行為である。たとえば、親が子に「今日の昼食はこれで何か買って食べなさい」と言って金銭を渡した場合、子がその金銭で昼食用のパンやおにぎりを買うこと(売買契約)は、個別に法定代理人の同意がなくても、完全に有効である。例外の3つ目は、第5条第3項後段にある、法定代理人が「目的を定めないで処分を許した財産を処分する」ことである。これは、上記の昼食代というような目的を定められていないもの、たとえば子が、自由に使ってよいものとして渡された小遣いなどを使ってお菓子やマンガを買う(売買契約)といった行為である。例外の2つ目、3つ目は、未成年者がそういった行為をすることによって、取引や財産の管理を学ぶことができるように定められている。当然のことであるが、学習・練習を行うことなく、成年となったら自動的に判断能力が身につくわけではない以上、これらの行為によって取引や財産管理の経験を積むことが重要となる。例外の4つ目は、第6条にある「営業を許された未成年者」である。これは、未成年者が会社に就職して会社の営業に携わるといった場合ではなく、未成年者が自分の名前で営業をする、つまり自営業を営むといった場合であり、未成年者が自分からビジネスの世界に飛び込んでおきながら未成年者であることを理由に契約を取り消されたりしたのでは、取引相手が困ることになるし、そうならないように未成年者とは取引しないという者も出てくれば未成年者は営業ができないということになってしまうからである。

では、逆に日常生活の中で未成年者が契約を結ぶ際に法定代理人の同意が必要とされる原則があてはまるのはどのような場合であろうか。それは未成年者が自分自身で新しいスマートフォンの契約をするといった場合である。「新しいスマートフォンの契約」の中にはスマートフォンの売買契約とそのスマートフォンを利用する通信契約が含まれているが、新しいスマートフォンはかなり高価であり、子どもの小遣いの範囲(例外の3つ目)に含まれないことも多いと思われるため、通常は、販売店のほうが「未成年者の方の契約の場合には保護者の同意が必要です」などと言って、法定代理人の同意を求めるのが一般的である。それは、法定代理人の同意を得ずに未成年者と契約をして、後から取り消されてしまうと販売店が損失を被るおそれがあるからである。一方、未成年者がスーパーやコンビニでお菓子やおにぎりを購入する場合に、いちいち「保護者の同意」が求められたりしないのは、通常は例外の2つ目や3つ目に該当して、後から取り消されることはないと考えられるからである。

以上が未成年者の契約(法律行為)についての法規制であるが、それは最初に述べたように、判断能力が不十分で取引経験も未熟な未成年者が取引によって大きな損失を被らないように保護するためのものである。しかし、第5条による保護と規制は「未成年者」を一律に対象としており、実際に問題となる取引を行った未成年者の具体的な判断能力などを審査して保護するか否かを決めるということにはなっていない。この点、第3講で述べた責任能力については、実際に加害行為を行った未成年者について個別に責任能力の有無を調べて損害賠償義務の有無を判断することになっているのとは、大きく異なる。これは、まず取引(契約、法律行為)は不法行為に比べて圧倒的に数が多いため、取引のたびに相手方の判断能力を調べるといったことが現実的ではないということがある。先にあげたスマートフォンの例のように、未成年者と取引をする可能性のある販売店の側から見れば、いちいち客の判断能力を審査するのではなく、年齢を聞くだけで未成年者であれば保護者の同意を得るというように簡単に判断して対応できるということが大きなメリットとなる。また、保護を受ける側でも、実際の判断能力の有無によって保護が受けられるか否かが変わるという制度であった場合、問題が発覚してから、過去の取引の時点での判断能力の有無を証明するというのは難しく、場合によっては証明ができないために保護を受けられないということにもなりかねない。未成年者であれば一律に保護を受けられるという現在の制度では、取引の時点での年齢は戸籍などによって簡単に証明できるので、簡単に保護が受けられるというメリットがある。以上のような理由で、未成年者であれば、その具体的な判断能力の程度を問題とすることなく、一律に保護が受けられるという制度になっているのである。

最後に成年の制限行為能力者について簡単に述べておく。成年であっても、精神上の障害などにより判断能力が十分でないことはあり、そのような者も制限行為能力者として保護を受けられる。ただし、成年の場合も、問題となる取引をした際の具体的な判断能力を調べて保護を受けられるか否かを判断するということは妥当ではないため、あらかじめ家庭裁判所による審判を受けて、そのことが登記されている者のみが制限行為能力者として保護されるという制度になっている。成年の制限行為能力者は、その判断能力の程度によって3種類に分けられる。まず、「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」は、家庭裁判所による後見開始の審判を受けて(第7条)、成年被後見人となり、成年後見人が付けられる(第8条)。「事理を弁識する能力が著しく不十分である者」は、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けて(第11条)、被保佐人となり、保佐人が付けられる(第12条)。「事理を弁識する能力が不十分である者」は、家庭裁判所による補助開始の審判を受けて(第15条)、被補助人となり、補助人が付けられる(第16条)。それぞれの制限行為能力者が単独で完全に有効に行えること、保護者の同意が必要なことなどは異なるが、詳細は「民法総則」の講義で聴いて欲しい。

第4節 制限行為能力者の相手方の保護

制限行為能力者の行った契約(法律行為)は、一定の場合には、取り消すことができるものとなる。取り消すか取り消さないかは制限行為能力者側の自由であり、また取り消されたことによって相手方が損失を被ったとしても、その損害の賠償を求めたりすることはできない。しかし、制限行為能力者側が取り消すか取り消さないかを決めてくれない不安定な状態が長期にわたるのは問題がある。この問題については、第8講で解説した契約の無権代理の相手方の催告権(第114条)と同じく、制限行為能力者の相手方の催告権(第20条)が認められている。ただし、無権代理の相手方の場合には当然本人に催告することになるが、制限行為能力者の相手方の場合には、制限行為能力者本人への催告とその保護者への催告がありうるので注意が必要である。まず、第20条第1項は、制限行為能力者が行為能力者となった後、たとえば取引の時点では未成年であった者が時間が経過して成年に達した後に、その者に1カ月以上の期間を定めて、取り消すことができる行為を追認するか否かを確答するよう催告した場合であり、「追認する」という確答があれば問題の行為は取り消すことのできない有効に確定し、「取り消す」という確答があれば問題の行為は取り消されて無効に確定する。そして、期間内に確答がなかった場合には、第20条第1項により「追認したもの」とみなされて、有効に確定する。第2項は、制限行為能力者が行為能力者となる前に、その制限行為能力者の法定代理人(未成年者の親権者または未成年後見人、成年被後見人の成年後見人)、保佐人、補助人に催告した場合で、このときも期間内に確答がなかった場合には、「追認したもの」とみなされて、有効に確定する。これらに対して、第4項は、被保佐人に対して保佐人の追認を得るよう催告した場合と被補助人に対して補助人の追認を得るよう催告した場合で、この場合は、催告を受けた被保佐人・被補助人は自分1人で確答ができないため、期間内に確答がなかったときは「取り消したもの」とみなされて、無効に確定する。なお、未成年者・成年被後見人には催告をしても、催告をしたということを対抗できない(第98条の2の類推適用)。

制限行為能力者の行った契約(法律行為)が、一定の場合に取り消すことができるものとなるのは、制限行為能力者を保護するためであるから、制限行為能力者が自分は行為能力者であると相手方を騙して契約を結んでおきながら、後になって、本当は制限行為能力者だったのでその契約を取り消すということは許されない(制限行為能力者の詐術、第21条)。条文では「行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたとき」とあるが、未成年者が法定代理人の同意があると騙した場合などにも、第21条は適用され、制限行為能力者であることを理由として取り消すことはできなくなると解されている。


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